東京地方裁判所 昭和45年(借チ)27号 決定
〔主文〕1 申立人が本裁判確定の日以降六か月以内に相手方に対し金三、七四四、〇〇〇円を支払うことを条件に別紙目録(二)記載の借地条件の目的を堅固な建物所有に変更する。
2 右金員が支払われた場合、同目録記載の借地条件中借地期間を右金員支払の日の属する月の翌月から三〇年間に、賃料を同月分から3.3平方米当り金三〇〇円に変更する。
〔理由〕一 本件申立の要旨
1 申立人は、昭和二三年五月一〇日本木弥三郎から別紙目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を、非堅固建物所有の目的、期間を契約後一〇年の約束で賃借し、その後相手方が本件土地の賃貸人たる地位を承継した。
2 申立人相手方間の本件土地に関する借地条件は別紙目録(二)記載のとおりであり、申立人は、本件土地のうえに、別紙目録(三)記載の建物を所有している。
3 ところで、本件土地附近は、右契約締結当時は焼跡に木造モルタル建築が建ち並んでいたが、事情の変更により、堅固な建物の所有を目的とするのが相当とするに至つた。すなわち、本件土地附近は、昭和二六年三月一九日防火地域に指定され、現在は急速に中高層ビルが建ちならび、繁華な金融・商業地域を形成している。
4 そこで、申立人は、前記建物を建てかえ、ここに鉄筋コンクリート造階建(建坪延約336.8平方米)を建築するため、本件土地借地条件の目的を堅固な建物所有とすべく相手方と協議したが、協議が調わないので、右目的の変更の裁判を求める。
一 当裁判所の判断
1 本件で取調べた資料によれば、前記一の1の事実のほか、本件賃貸借の期間は一〇年であるが、右は借地法に反し無効であり、本件賃貸借の現借地条件は別紙目録(二)記載のとおりであることを認めることができる。
相手方は、本件賃貸借は、一時使用のものであつて昭和三三年五月九日一〇年の期間の経過により終了したと主張するが、前記資料によれば本件賃貸借の約定期間は一〇年というかなり長期なものであるうえ、契約条項上も双方合意のうえ期間を延長できる旨の規定があること、建築建物が木造ではあるが仮設的なものでないことにてらせば、本件賃貸借は通例の継続的借地関係であつて、一〇年をもつて終了する一時賃貸借である旨当時者間で合意があつたとは認めることができない。
ところで、前記資料によれば、本件賃貸借契約締結当時本件土地附近は木造建物が通例であつたが、昭和二六年三月一九日防火地域に指定されたほか、附近一帯堅固な建物が建ちならび、現に借地権を設定するに際し、堅固な建物の所有を目的とするのが相当であるに至つたことが認められる。相手方は契約期間満了時自己使用の必要性があると主張し、前記資料によれば、相手方は本件土地に隣接して土地を所有し、本件土地を一括して利用するのが土地の効率的利用に資することは認めうるが、他方相手方占有の現土地のみをもつてもビルの建設は可能であり、正当事由の存否は借地人側の事由も考慮すべきところ、現段階において、相手方が申立人の利用を排して更新を拒絶しうる可能性は少い。他に本件において借地条件の目的を堅固な建物所有とするのを不当とすべき事由はない。そこで、本件申立は後記の附随処分のもとにこれを許可するのが相当である。
2 附随処分について検討する。
鑑定委員会の意見の要旨は、「申立人に対し、財産上の給付として金三〇〇万円、賃料を3.3平方米当り金三〇〇円に増額する。財産上の給付額の根拠は、本件土地の更地価格を3.3平方米当り金一二〇万円、借地権価格を近隣の借地権割合に従い、更地価格の八〇%とする。条件変更の承諾料は、期間を三〇年間とし、二〇年分の承諾料借地権価格の八%にその半額を加算すると上記のとおりなると。」いうにある。
当裁判所は、本件賃貸借の目的変更に際し、借地法二条、七条の趣旨により、本裁判確定の日から三〇年間に変更する。ところで、本裁判により、申立人は、借地期間を延長され、朽廃による借地権消滅の危険を免れ、建物買取価格の増加による明渡請求を困難にさせる等の利益を得、相手方にこれに応じた不利益を与えるのであるから、右利害を調整するため、申立人に財産上の給付を命ずべく、右の利害は、いずれも借地権価格の考慮要素であるから、その給付額は、本件目的変更前後の具体的借地権価格の差額による。しかして、目的変更に伴う価格差は、従前の裁判例によれば更地価格の一〇%を指標とするが、本件においては、期間の定めのない賃貸借であり朽廃による借地権消滅の危険があること、期間も約二三年延長され、通例の堅固、非堅固の借地期間の差より更に延長の利益が大きいことを考慮し、申立人に命ずべき給付金を鑑定委員会の定める更地価格(金三、一二〇万円)の一二%にあたる金三、七四四、〇〇〇円とするのが相当である。
賃料については、近隣比準賃料に従い3.3平方米当り金三〇〇円に定める。
(筧康生)
目録(一)
(土地)
(一) 東京都港区新橋六丁目四番ノ四
宅地199.13平方米(60.24坪)
実測221.34平方米(66.96坪)
のうち、41.78平方米(12.64坪)
(二) 二同所四番ノ一〇
宅地66.38平方米(20.08坪)
実測66.41平方米(20.09坪)
のうち44.16平方米(13.36坪)
合計 85.95平方米(二六坪)
目録(二)
(借地条件)
1 目的土地 目録(一)記載の土地
2 賃貸人 相手方
3 賃借人 申立人
4 目的 非堅固建物所有
5 成立 昭和二三年五月一〇日
6 期間 定めなし
7 現賃料 一か月四、三九〇円(3.3平方米当り金一六九円)
目録(三)
(建物)
東京都港区新橋六丁目四番地一〇、四番地四
家屋 番号四番一〇の一
木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建
事務所・作業所
一階 69.41平方米(二一坪)
二階 46.27平方米(一四坪)